2度の苦境を乗り越え、自分自身の人生を勝ち取れた背景とは - 山口ありさ

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今回、早稲田大学馬術部元主将の山口ありささんにお話しを伺いました。経歴だけ見ると華々しく感じられますが、彼女には、頑張りたいと思いながも一歩目を踏み出せず、壁を目の前にして燻っていた過去がありました。「環境を言い訳にして逃げていたんです」と語る彼女が、何をきっかけに「未来は良くなる」と信じられる人になったのか。インタビューをする中で、もがく彼女の強さに触れて感情が込み上がる瞬間が何度もありました。「人は頑張る他者の姿を見て、自らも奮い立つ」本メディアのコンセプトの基になった僕らの価値観です。今、高い壁の前で立ち尽くしている方、為す術がないと諦めかけている方へ、山口さんの勇気の物語をお届けしたいと思います。

日本に帰国したら
待っていたのは生き辛さ

山口:私は、父の仕事の関係で海外で生まれたんです。その後、複数の国を転々として小学生のときに日本にやってきました。日本に来て強く感じたのはカルチャーショックというか、その空気感に全く馴染めなかったんですよね。


みんな一緒でいなきゃいけない感じとか、それに馴染めない子は排除する感じとか、何か大きな事件とかがあったわけではないんですけど、そういう風潮にすごく苦しみました。イジメとかもありましたし。学校の先生は、周囲と違っているからという理由で私の振る舞いとか話し方とかを正してくるような方もいて、信頼できず、友達に対しても素の自分を表現することなく周りに合わせて生きていました。そういう自分であることが嫌でしたし、友人たちにも申し訳なさを感じていましたね…


さらに日本に来てから家庭にも変化があったんですよね。新たな地に越してきたと同時に、父が半ば単身赴任状態になったんですけど、「二人の子供(私と兄)を抱えて、自分がしっかりしないと」という思いが母のストレスになったのか、家庭が結構荒れました。母は私たち兄妹にもとにかく完璧を求めてくるようになったので、次第に弱さを見せられなくなり悩みを相談できるような関係ではなくなってしまったんですね。なので、学校ではみんなと同じを求められ、家では良い子でいることを求められ、心休まる場所が全くなくなったんです。


唯一、私の振る舞いがどうとかを全く気にせずに仲良くしてくれた子がいました。でも、彼女が一時海外に行っちゃって。彼女の帰国後また同じ小学校になったときに「変わっちゃったね。」と言われたんです。自分を押し殺している私を見かねたんでしょうね。軽蔑された気がして、ものすごくショックでした。

初めて安心できる環境、
信じられる他者との出会い

山口:そこから、ちょっとずつ自分を変えようとするアクションを取るようになりました。それまでは誰かに合わせて、誰かの承認を得て自分を保っていたんですけど、自分を押し殺しているという自覚もずっとあったんですよね。もはや親友の前でもそうなるくらいに。でも、彼女の言葉をきっかけに、「周囲がどうとか関係なく、自分らしく自由に生きたらいいじゃんってメッセージを自分で出したらいいじゃん」って思うようにして、ちょっとずつ行動するようになっていきました。


まだまだまだまだ、周りの目を気にしていたんですけどね。その後全く真面目に勉強をせずに中学受験をして、なんとなく入学した中学で運よく人に恵まれたんです。自由な校風で、校則もほとんどなく、進学校でもなかったので勉強しなさいとも言われず。スポーツがやりたいと思って入部した陸上部はめっちゃ緩くて、頑張りなさいとか必死にやりなさいとかそういうことを一切言われず、何かをを強要されない環境だったんですね。週5、6で練習していたんですけど、みんなちょっと手を伸ばせば届くような目標を掲げて、全然効果がないようなトレーニングをしていました笑。楽しかったです笑。心落ち着ける場所がそれまでなかったので。


そういえば、すごく印象的な出来事があったんです。同期が5人いて、そのうちの一人が学校に来なくなったんですね。でもまた一緒に部活をしたいという私の思いもあったし、私だけじゃなくて他のメンバーも彼女を救おうって気持ちを絶対に捨てなくて、不登校になったこは結構ひどいことも私たちに言ってきて、喧嘩もたくさんしたんですけど、それでもみんなで彼女がいつでも帰ってこれるような状態を残し続けたんですね。それが、彼女たちを信じられるなって思えるようになったきっかけでした。最終的に学校にくるようになって、「ありがとう、みんながいなかったら本当に学校辞めてた。」って言われて。彼女も変わったんですよね。


なんで諦めなかったんですか?

山口:うーーーん、他のメンバーが彼女の可能性を信じていたから。


それと、これは当時強く思えていたかどうかはわからないんですけど、私、未来は良くなるってすっごい信じているというか、未来に対してはすっごいポジティブなんですよ。

今の自分や、環境がベストじゃなくても、将来は絶対良くなるってそういう思想を持っているんですよね。信じているというか、信じないとやってられなかったみたいなとこもあるんですけど。だから、他の人の未来も絶対に良くなると思っています。絶対に変わる、変えられるって思ってますね。その思いはどんどんどんどん強くなっているし、自分がそこ(誰かの未来を良くするということ)に関われたらいいなと今は思っています。

全力で頑張ることの怖さ

居場所ができ、他者を信じて少しずつ自分らしく振る舞えるようになった山口さんでしたが、当時感じていた「生きにくさ」の原因はそれだけではなく、抱えていたものが実は他にもありました。

山口:結果主義の母親の元で成果を出すこと、完璧でいることを求められ続けて生きてきたんですけど、私は何かで成果を出すという経験をしたことがなくて、ずっと劣等感の塊だったんですよね。逆に兄は勉強でもスポーツでも成果を残して、いつの間にか自分とかけ離れたところにいるみたいな状態で。自分の中で逃げてるなあって認識はずっとありました。


でも一歩踏み出せなくて。とにかく相当自分に自信がなくて、めっちゃ頑張っても成果を出せないことのダサさとかに目が向いていましたね、まだ人の目を気にしていたので。頑張りたいって気持ちはちゃんとあった、ありました。でもそれを表に出せなかったです。自信がなかった私は、全力で頑張った結果成果が出ないのが怖くて、「頑張ってないから」って言い訳がしたかったのだとも思います。

自分の人生のオールは自分で握ろうよ

逃げているという認識、頑張りたいという思いを持ちながら一歩踏み出せなかった彼女が踏み出したきっかけは、大学受験時に訪れたある転機だったそうです。

山口:最初は大学受験もめっちゃ逃げていました。大学なんか行かなくていいんじゃない、とか言ってたり。でもそこで転機がありました。父が鬱になり自殺未遂、家庭がものすごく荒れたんですよ。そういう父を母がものすごく責め、それに対して父は謝るばかりで。その光景を目にしたときに、言葉にするのがすごく難しいんですけど、「強くならなきゃ」みたいなことを感じたんですよ。


もうなんにも上手くいかない、その状況に憤りを感じたんですよね。親のせいで上手くいかないとかいう言い訳ももうしたくなくて。地獄みたいな状態だったんですけど、このときですかね未来は明るいと強く信じようとするようになったのは。


自分が成果を出すことが家を明るくするんじゃないかとか、その当時偏差値も底辺だったんですけど自分が頑張る過程がが父を勇気付けるんじゃないかとか、そんなことも思っていました。あと前から思っていた変わらなきゃとか、ちゃんと弱い自分に向き合わなきゃって思いもそのときに改めて強く感じて、全感情を合格に向けて頑張ることへ注げました。


何で頑張ろうとしたんですか?全て放棄することも選択肢としてなくはなかったと思うんです。

山口:うーん、一つは兄の存在ですかね、

自分で自分の人生をコントロールしていくために逃げちゃだめだっていうようなことをぽろっと言われて、それは後押しになったような気がします。


それから、何で母があそこまでヒステリックになったのかなって考えたときに、自分の人生のオールを誰か(父)に預けたからなのかな、と思ったんです。母はどうしても経済面で父頼りだったので、父が上手くいかないときに不安になってあんなに責めてしまったんだろうなって。


なので、当時は自分の人生のオールを自分で握って舵を切れるようにならないとって思い、そのときの感情を言葉にすると「強くならなきゃ」でした。当時は自分を追い込みすぎていて。今は人生はコントロールできないことの方が多いけれど、自分の人生のオールを握って目的地に近づいていれば幸せだなあと思っています。


話がそれてしまいました。

そのときは頑張ることへの恐怖心は全くなかったんですよ。結果が出なかったらとか考えなくて、頑張っているみたいな感覚すらないような状態で、それしかやれることがなかったんでもう死にものぐるいでやっていました。


ただの受験勉強なんですけどね笑。家は相変わらず荒れていて、物が割れるような音が聞こえてきたりしてたんですけど、そういうことがあるたびに、尚更強くならなきゃって思って、その思いがどんどん強くなっていって、もはや全然関係のないことでも結びつけてエネルギーにしていました。これまで全部周りのせいにしていたんですよね、クラスがあんなだから自分は周囲に合わせきゃいけないとか、家がこんなだからまともに勉強できないとか、でももうそんなことを言うはめにはなりたくないと思っていました。

バックグラウンドに関係なく、
人の可能性を信じられるチームを作りたい

- 最終的に自分が行きたい大学に見事合格し、自分の人生を手にした山口さん。
やれることは全部やったので受かるだろう、そんな感覚だったそうです。対して、本当は美術家として生計を立てたいと思っていた夢を一度は諦めた母親の葛藤も見ていた彼女は「”親”などといった肩書きや責任感、他者に支配されず何度でも夢に向かうことができる世の中にしたい。そして多くの人、特に肩書きやバックグラウンドに苦しむ人も「『自分の人生のオールを握って目的地に近づいている』状態になってほしい。」と思うようになったそうです。その思いは、大学時代に所属していた馬術部での経験からも表れていました。

山口:初心者でも受け入れてくれる部活なんですけど、入部した後は作業がメインになってしまいがちなんですよね。


試合で成果を出すことはあまり期待されなくて。馬にも優劣があり、もちろん仕方がないんですけどね。仕方がない部分もありつつ改善できることがまだたくさんある状態に対して、多くの部員が環境を変えようとアクションを起こさず文句ばかり言ってたので、それに対して憤りを感じていたし、自分なら変えられるみたいな思いも持っていました。


そこから、状況を改善しようと、一年生ながら先輩の組織運営に介入していきました。


文句ばかり言っている部員たちのことが過去の自分を見ているみたいで嫌でした。私自身が頑張ったら変われるという経験をしたので、本気で頑張ったら何か変わるということを信じられたし、周囲に示したかったんだと思います。


そしてバックグラウンド関係なく、自分と他のメンバーの可能性を信じることができるチームを作りたかった。

山口:対して選手としては結局成果を出せなかったんです。でも、初心者で入部した自分が高い目標を掲げて頑張ること自体が初心者の子たちの希望になるんじゃないかって思っていたのと、自分が成果を出すことが部活が変わったって証明になるとも思っていました。

その後、組織全体をよくできる人物という基準で主将に選出されたそうなのですが。自分の理想の主将像とのギャップを埋められずに苦しんだそうです。
※馬術の世界は経験値が大切で、経験者の多くは幼少期から取り組んでいるため、息をするように馬に乗る人がたくさん存在しているんだそうです。そのため初心者が経験者から学んでスキルを習得することや、そういう環境から這い上がるのは生半可な難易度ではないそうです。

山口:主将になった時点では、あまり責任感とかは感じていなかったんですけど、やっぱりチームのあらゆることが主将の責任になるんですよね。なので、結果も出すし、チームもまとめられるしという理想の主将像にならないと、という思いに縛られてしまって、そのギャップに苦しみました。絶対に結果を出すと意気込んで出場した試合があったんですけど、ボロ負けしたんですよ。


そのとき、選手としても失敗だし、主将としても失敗だし、人間としても失敗だみたいに感じてしまって、全ての自信を失いかけたんですよね。こんな状態でどう人の上に立ってチームをまとめるんだと、もう辞めたいと思ったんですね。でも、同期の一言をきっかけに改めて主将像を考えるきっかけがあって、思ったんです。上に立って率いるのではなく、後ろから強く押すような存在でもいいじゃないかって。


それぞれの成功を後押しするために道を作るような。これは私の中の幸せの定義なんですけど、人は必ずしも目標を達成しなくても幸せだと思っていて、目標にちゃんと向かっていると感じられることが大事だと思ってるんですね。


それを阻害する一つが環境だと思うんですけど、だから環境を変えることに価値を感じるんです。みんなが日々目標に向かって頑張れているって実感を持てれば、部活が幸せなものになるんじゃないかと思って。そこからいろんな人にチャンスをが巡ってくるにはどうしたらよいか考え続けました。

「未来は必ず良くできる」と信じている

結果、チームとして初の年間退部者0を達成し、成績も向上したと言います。「ベストなやり方はもっとあったかもしれないですけど、やれることは全部やった、なので今は満足しています。」とおっしゃる山口さん。最後に、本気で頑張ることが怖かった彼女がなぜそこまで頑張れたのかを聞いてみました。

山口:やっぱり、すでにお話しした大学受験での経験がすごく大きいです。


あの状況の中で成果を出せたことは自分の糧になっていて、自分は未来をよくできる人なんだと信じられていたし、私自身が変われたからこそ、誰でも環境を変えようと何か行動を起こし続けられれば、必ず変えられるるはずだと信じられるようになったと思います。


ただそれまでに、友人の可能性を信じる中学時代の部活仲間や、私の可能性を信じてくれた兄の存在があったからこそだと思っています。

柔らかい口調で、強い想いを語ってくださった山口さん。今後のキャリアでは、人が頑張ることを環境が邪魔をするというストレスを世の中から少しでもとり除き、誰もがちゃんと夢に向かって頑張れる、向かっていけていると感じられるような世界を作りたいと思っていらっしゃるよう。
山口さんのインタビューを通して強烈に感じたのは、人間の強さでした。折れそうな状態の中でも最終最後逃げずに立ち向かう強さ、苦しい状況の中自分を信じて前進できる強さです。今一歩踏み出すことを躊躇している方、頑張りきれずに燻っている方、本来自分の中にある勇気が思い起こされたのではないでしょうか。

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